最悪な研修の生まれ方②

以前に「最悪の研修の生まれ方」というブログを書き、大変多くの方に読んでいただきました。(→ そのブログ記事へ

その記事は、事業会社の人事・研修部門が外部のコンサル会社や研修ベンダーへ研修を依頼・発注する際によくあるケースを書いたものでした。

今回の記事は、事業会社の中でのやりとりに関するものです。自社の社員に対して、研修を設計し、自らが登壇する人たちの話です。

そういった人たちの発言や活動ぶりを見聞きしていて疑問に思うことがあります。

応援団長

今日はそんな話です。

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もしあなたが、自社の社員に対して研修を実施する立場であった場合、

Question:以下のケースでどう対応しますか?

さて、どう対応しますか。

①依頼を断る
②90分間×3回での実施を、依頼者にもちかける
③内容を圧縮したり、端折ったりして、なんとか90分間で研修を実施する

こんなときの対応には、以下のパターンがあるように思えます。

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パターン① 依頼者に対して、ハッキリとモノが言える場合

依頼者とのこれからの関係性を考慮すると①は選べない。そこで、②→③の順で対応するパターン。

まずは、「90分間だと厳しいですね」とか、「90分間で人の意識や行動は変わりませんよ」とか、「90分間×複数回での実施はどうでしょうか」と依頼者に示し、反応をみる。

それを依頼者が受容してくれればいいのですが、「現場は忙しいから、何度も集められない」と言われ、仕方なく③で対応することになる。

受けた依頼にベストを尽くして対応するが、本来の目的達成は叶わない。

このパターン、よくありますね。こうやってやるだけ無駄な研修が、日々どこかで行われています。

応援団長

ちなみに、経営状態が良好な外部の研修ベンダーや、しっかりした人材コンサルタントの中には、「残念ですが、ご期待に沿えそうにありませんので、今回は提案から下ります。他へご相談ください」という、②→①というケースもありますね。

応援団長

その結果、売上に必死の研修ベンダーや、売らんかなの姿勢の人材コンサルタントが受注し、研修を実施したという事実だけが残ることになります。

パターン② 依頼者に対して、ハッキリとモノが言えない場合

依頼者に遠慮して、①はおろか、②すら選択することはなく、③で対応。

実施する研修はきっとこんな感じになっているはずです。

▲ 講師は、90分間で収めるために受講者に気を遣いながら研修を進行
▲ 講師は、受講者の態度がどんなに悪かろうが、参加意欲が低かろうが、的外れな発言をしてこようが、嫌な顔ひとつせずに対応  ※注意や指摘はしない

▲ 講師の気遣い・懸命さにより、研修後アンケートに否定的なコメントは一部のみ。ただし、肯定的なコメントは、「ためになりました」とか「楽しかった」とか「皆と話せて良かった」といった、何とも曖昧な、研修目的との関連が見えない、抽象的で社交辞令的なコメントばかり

当然ながら、こんな研修では、受講者の意識・行動の変容は全く起こりません。かくして、研修目的は順調に未達成に終わります・・・。

このような残念な結果にもかかわらず、関係者の誰も声をあげることはありません。各関係者はきっとこんな状態です。

■依頼者:とりあえず、気になっていたことに対して手を打ったのでひと安心
■受講者:研修が仕事の役に立つかどうかは怪しいけど、いちいち文句を言うほどのことではないか
■実施者:アンケート結果は良かったので、依頼者の期待には応えられたは

こうやって、何のためにやったのかよく分からない研修が毎日どこかで生み出されています。

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全く別の観点ですが、以下のようなケースも散見されます。

面白そうというだけで実施

研修を設計する場合、様々な工夫を考えます。世の中には研修で活用できる役立つ様々なコンテンツやツール、ノウハウが販売されていますので、研修担当者はそういったものを取り入れようとします。

例えば、自己分析のための診断ツールやカード、経営シミュレーションのためのゲームなどを利用するための資格を取得するために、外部のトレーニングを受講したりするでしょう。

それらを使って、「経営に資する」研修を設計・実施できればいいのですが、実際には残念なケースをたくさん存在します。

本当に解決しなくてはいけない、経営上(事業戦略遂行上)の課題を押さえずして、取り入れたコンテンツやツールを使用することが目的化しているように見える研修があまりにも多いです。

応援団長

その証拠として、私が研修設計者の「その研修をやるに至った、事業戦略上の課題って何ですか?」と聞いたとき、ちゃんと答えられた人はあまりいません・・・。

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がっかりな研修が毎日、日本のどこかで企画・実施・リピートされています。

社員の皆さんは日々忙しく働いています。そんな研修は、社員から貴重な時間を奪っているわけで、ますます生産性を低下させている可能性があります。

本当に企業価値の向上につながる研修を設計し、実施していきたいものです。少なくとも、経営に資する研修を設計するために数冊は関連本を読んでおくべきです。

中原淳著『人材開発・組織開発コンサルティング』ダイヤモンド社(2023年)

中原淳著『研修開発入門』ダイヤモンド社(2014年)

D.ロビンソン&J.ロビンソン著 『パフォーマンス・コンサルティング』ヒューマンバリュー(2007年)

など。